僕が一体なにをしたというんだろう。

ぼんやりと石で出来た天井を見上げ、何度目か分からない疑問を頭に浮かべる。

事の発端は昨日。

サートゥンという街の宿屋で眠っていたら、突然ドアが蹴り破られた。

本当に何の前触れもなく。

驚いて飛び起きた時には武装した兵士が僕の周りを囲んでいて。

咄嗟に無詠唱で魔法を使ってみたものの、既に対魔法用の防御壁が張られていたため無効化された。

あっという間に捕えられて、今はこうしてサートゥン城の地下牢に入れられています。

分厚い石の壁はとても冷たい。

そして暗い、ついでに寒い。

武器や荷物などは捕まった時に全て回収されてしまった。

普通の牢屋だったら魔法を使えれば出られない事もないんだけど、牢屋自体に特殊な細工がしてあって出られない。

魔法のエネルギーを吸収して無効化する結界が何重にも掛けられているから、僕1人ではどんなに魔力を込めたとしてもこの結界は破れない。

せめて武器・・・法器とかがあれば、まだなんとかなったのかもしれないけど。

「・・・・・・お腹空いた」

お腹の虫が空腹を訴える。

牢屋全体に響いているんじゃないかと思うほどに。

とにかく、なんでもいいからなにか食べ物が欲しい。

と、切実に考えていた時だ。

急に見張りの兵士たちが慌ただしく走り回り始めた。

武器を構え、安っぽい支給された鎧をカシャカシャと鳴らしながら、その場を離れていく。

何かあったのかと思い、牢屋の鉄格子から外を覗く。

すると、先ほどまで巡回していた兵士の姿もどこにもなかった。

一抹の不安も頭を掠めたが、それよりも。

もしかして、いまここ警備はすごく手薄になってるのではないか。

という事はいまが逃げ出す千載一遇のチャンスなのか。

・・・かと言って、この鉄格子を突破する方法がある訳じゃない。

魔法は防がれてしまうし、扉をこじ開けようにも・・・こじ開ける為の道具は一切持っていない。

石の壁にも結界の効果が及んでいる。

結局八方ふさがりじゃないか、困ったなぁ。

それから数分が経ったが、特に何か良いアイデアが浮かぶ事も無く。

どうしたものかと牢屋の中をウロウロしていた時だ。

兵士たちが向かった先から、爆発音が聞こえてきた。

兵士たちの悲鳴のようなものもちらほらと響く。

・・・戦争なんてことはないはず、多分。

すると今度は向かい側の使われていない牢屋の壁が爆発した。

反対側は通常の牢屋だったようだ。

吹き飛んだ壁の破片は粉々になって、それこそ砂のようになっていた。

魔法だったら、相当強力なものをぶつけた事になるけど・・・

でも、なんか・・・逆に砂埃が舞って大変な事になってる。

目を開けていられない。

状況を確認したいのに、全然前が見れない。

続けて、金属が地面に落ちるような音。

とりあえずよくある展開とすれば、得体の知れない何かが鉄格子を破壊して中に入ってきた、としか考えられないんですけど。

「おい」

低い声。

ゆっくりと目を開けてみる。

砂埃はほとんど収まっていた。

そして、目の前には長身の狼獣人が立っていた。

ピンと立つ耳、シャープなマズルに、どことなく悪そうな目つきをしている。

でもなぜか、不思議とこの人は敵じゃないと思った。

確かに目つきは悪いけど、殺気どころか戦意の欠片も感じられなかったから。

もしそうでなければ、こうして僕に手を差し伸べるはずがない。

「だ、誰・・・?」

「自己紹介は後だ。俺についてこい。ここから出たいのならな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっと速く走れ! また捕まりたいのか?」

「う、うるさいなぁ! これでも全力で走ってるよ!」

決して。

決して僕が走るのが遅いわけじゃない。

魔法の方が得意だけど、別に接近戦が出来ないわけじゃない。

要するに運動神経が鈍いわけじゃないってこと。

でもこの狼さん、走るのが尋常じゃないほど速い。

追いつくのがやっと・・・・・・って言うか、狼さんが僕に合わせて走ってくれているみたい。

「お前、無詠唱で魔法が使えるらしいな」

「え!? う、うん!」

「移動しながらでも撃てるか?」

「あんまり強力なのは撃てない! 頑張っても中級魔法くらいしか・・・・・・」

「なら下級も撃てるな。それで十分だ。一度しか言わないからよく聞け。

今からここの宝物庫を襲撃する。お前は見張っている兵士を攻撃しろ。わかったな」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 狼さんは何!? 盗賊なの!?」

「そろそろ着くぞ。俺の合図で撃て」

シカト!?

狼さんは帯刀していた剣を抜いた。

刀だ、このあたりでは珍しいかも。

見張りの兵士がこっちに気付いて、戦闘態勢に入る。

・・・・・・やるしかないのかな。

移動しながら魔法使えって言ってたけど、どうしよう?

移動しながらの無詠唱魔法は負担がかかりすぎる。

かと言って、移動しながら詠唱は出来るかっていうとそうでもないんだけど。

ただでさえお腹が空いているっていうのに。

そうなると、発動チャンスは1回だけ。

となると・・・・・・3人いる兵士をまとめて攻撃しなきゃならない。

なるべく広範囲なものか・・・・・・

「今だ、撃て!」

え、ええ!?!?

ちょ、待っ・・・・・・まだ準備出来てないし!

「ああもうどうにでもなれ! 適当に範囲!!」

とりあえずイメージも何も固まっていない範囲魔法を適当に撃った。

何が発動するかは僕にもわからなかったけど、とりあえず効果範囲の広い魔法。

すると、兵士が1か所に吸い寄せられた。

『ギャザリング:無属性補助魔法

任意の場所に対象を引きずりこむ魔法。ダメージはなし』

よっしゃ、僕の使える攻撃&補助魔法の中で、一番広範囲に影響する魔法・・・・・・・・・って。

これは完全にやらかした・・・・・・かな? と、不安になったけど。

狼さんは兵士の横をそのままのスピードで通り抜ける。

それと同時に、兵士が血しぶきをあげて倒れた。

・・・・・・・・・いつ斬ったの?

てか、僕の魔法いらなくない?