ギルドの向かいにある、ルドルフさんの行きつけという店に入る。

鍛冶町にしては、とても雰囲気の良い、落ち着いた店だ。

・・・鍛冶町にしてはって、ちょっと失礼だったかも?

ルドルフさん専用だという個室に案内される。

それから適当に料理を注文して、運ばれてきた料理に舌鼓。

締めにはプリンの乗ったジャンボパフェ。

おいしーーーー。

「食べ終わったらギルドへ戻るぞ」

「はーい」

「きっとあいつらも戻ってきてるだろうから・・・」

「ルドルフはいるかーーーー!!」

突然店の入口の方から大声がした。

びっくりしてプリンを吹き出しそうになったよ・・・

「お、やっぱここだったか!」

「・・・・・・・・・」

そんな事を言いながら個室に入ってきた、ルドルフさんの知り合い・・・と、思われる人。

片方はルドルフさんと同じくらいの身長で、よりガッシリした体格の虎獣人。

もう片方はそれよりは背が低く、細身の犬獣人。

「・・・・・・ぁん? このちっせぇ奴ぁ誰だ?」

「!?」

初対面でいきなりちっせぇ奴って、どういうことなの・・・

「ちょ、ちょっと。初対面でいきなり小さいって、失礼じゃないですか」

「あぁ? そんな細けぇ事気にしてっから小せぇままなんじゃねぇのか? ん?」

「な、なんだとー!」

「・・・・・・・・・うるさい」

虎さんに文句を言ってみたが、反省するどころか追い打ちをかけてきた。

思わず立ちあがろうとしたが、犬さんの静かな、かつ低く通る声でそう言われてしまった。

反論の言葉を飲み込む。

でも、なんか面白くない。

半分くらい残っていたパフェを一気にかっ込む。

「そんなに怒んなよ」

無視無視。

スルーまっしぐら。

「背だけじゃなくて、器も小せぇんだな」

「・・・・・・」

「ま、お子ちゃまにゃ何言っても無駄か?」

「・・・・・・」

「・・・テセウス、うるさい」

「子供相手にムキになるなよ」

「・・・・・・!」

ルドルフさんにまで子供扱いされた!

「ンだよ、ちっとからかってただけじゃねぇか。冗談だよガキんちょ・・・・・・ってやべ、素で言っちまった」

ぷっちん。

血管が切れたとかそういうんじゃないけど、頭の中で何かが切れた。

僕は椅子からゆっくりと立ち上がり、持っていたスプーンに魔力を込める。

こんな食器でも十分法器になり得る。

とにかくこの虎を焼き尽くす事しか、それしか考えられなかった。

そうしないと気が済まない。

「お、おいおいなんかやべぇんじゃねぇか?」

「そうだな。逃げるぞオリフィス」

「・・・・・・(コクッ」

「テセウスはアレンを止めろ。お前の責任だ」

「ま、マジかよ!? ・・・・・・・・・マジで行きやがった」

怒りが先行していて魔力の収束に時間はかかったが・・・もうすぐ発動できる。

いつの間にかルドルフさんと犬さんは個室からいなくなっていた。

目の前には虎のみ。

「な、なぁ・・・・・・落ち着けって。な?」

「・・・・・・・・・っ!!」

滅べ!!

「や、やっべぇ!!」

「ガデスバーニング!!!」

『ガデスバーニング:火属性上級魔法

使用者の周囲に大規模な爆発を起こし、爆発のエネルギーと爆風で相手を吹き飛ばす魔法。

爆発の範囲と威力は反比例するが、魔力を込めるほどその比率は小さくなる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「すいませんでした」」

ルドルフさんの行きつけの店は、跡形もなく吹き飛んだ。

ルドルフさんと犬さんのお陰で他のお客や店員は店の外へ避難していたから、ケガ人は1人も出なかったみたいだけど。

しかしガデスバーニングが発動し店が吹き飛んだ瞬間、店主が物凄い顔で膝を付いて、口を大きくあけたまましばらく固まっていたそうだ。

爆風で吹っ飛んだ虎。

寸前で大ダメージを与えられなかったようだ。

逃げ出そうとする虎に、無詠唱下級魔法で追い打ちをかけていたが、しばらく走り回っていた所でルドルフさんから重いゲンコツを喰らって我に返った。

「・・・・・・はぁ」

店主の何度目か分からない大きなため息が心に刺さる。

でも、元はと言えば・・・

「てめぇのせいだぞ、ガキ」

今一緒に頭を下げているこの虎・・・・・・っておい!

「なんでそうなるんだよ!」

「うるせー! お前があんな魔法発動させなきゃ店は吹っ飛ばなかったんだ!!」

「お前がチビとかガキとか言うからだろ、バカ!」

「誰がバカだ! 店1軒吹っ飛ばした奴に言われたくねーっつーの!」

ガンッ

「あだっ!」

「いでっ!」

「いい加減にしろ」

ルドルフさんの鉄拳が落ちてきた。

同じ所に来るとは・・・・・・

「・・・・・・」

犬さんがすごく冷やかにこちらを見ている。

めちゃくちゃ怖いです。

「うちのバカが迷惑をかけたな」

「・・・・・・はは、全部吹き飛んだよ・・・店も売り上げも、全部・・・・・・」

「・・・せめて、店が元通りになるまではギルドに泊まっていってくれ。 明日・・・いや、今夜にでもガドベルクに掛け合おう」

「ああ・・・・・・」

店主のおじさんはがっくりと肩を落としている。

ふらふらとした足取りでギルドへと入っていった。

一歩間違えれば自殺しかねないくらいの落ち込みだった。

なんだか心配だなぁ。

「・・・・・・・・・」

犬さんも無言でギルドへ入っていった。

続けてルドルフさんと虎も中へ入っていく。

爆音に集まってきた街の人達も、それに合わせるように離れていった。

僕は1人その場で立ちつくしていたが、虚しくなってルドルフさんを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルドルフさんの部屋。

高そうなソファーに座っている。

横には犬さんが座り、正面にはルドルフさんが座って向かい合っている。

虎は長い話は嫌いだとか言って、さっき部屋を出ていった。

夜には戻るとも言っていたけど、まだ日が落ちるには早い。

「・・・・・・」

空気が重い。

さっきの件のせいだろうけど、こんな雰囲気で堂々と出ていけるあの虎はどういう神経をしているんだろう。

ルドルフさんが咳払いを1つ。

「改めて自己紹介をしよう。俺はルドルフ=ゴッドウォルク、ギルドマスターだ」

「・・・・・・・・・オリフィスティア=ディメンシス・・・・・・サブマスターをしている・・・・・・」

「さっき出ていった虎はテセウス=ティグレット。もちろんあいつもギルドの一員だ」

「ぼ、僕はアレン。よろしく・・・・・・」

そう言ってオリフィスティアさんに手を差し出したが、無視されてしまった。

・・・・・・なんかかなり嫌われてるみたいだ。

ルドルフさんが呆れたようなため息を吐く。

「・・・・・・俺達がアレンを助けた理由。それはアレンの持っていたこの指輪を手に入れる為だ」

それはさっき話してもらったから知っている。

森で拾った指輪だ。

「この指輪は破軍と呼ばれ、強大な力を秘めている」

破軍・・・

「そしてこの世界には破軍の他に貪狼、巨門、禄存、文曲、廉貞、武曲の指輪がある事が古の書物に記されていた」

「ふむふむ」

「その書物によると、これらの指輪は単体では意味を持たず、7つ揃った時にのみ真の力を発揮するという。

その力は1つの国を滅ぼすに留まらず、世界を破滅させる事も容易な程だそうだ。

俺達はそういう事態に陥る事を防ぐ為、誰かが指輪を求める事が無いように監視し、また手にするのを阻止しようと動いている。

表向きにはただのギルドとして、な。

回収した指輪は二度と誰の手に渡る事の無いよう、厳重に封印するつもりでいる」

「なるほど・・・・・・」

まさか偶然拾った指輪にそんな秘密があったなんて。

「僕が捕まったのもその指輪が原因だって言ってたけど、それはどういう事なの?」

「それは俺にもわからんが、それ以外に軍隊を動員させる理由が無い。もし街中でアレンが指輪を取り出していたとすれば、目撃した誰かが通報したのかもしれんな。

見る者によっては一目で破軍だと分かるくらいの品だからな」

取り出して眺めていた記憶なんて無いけどなぁ・・・

「元々俺達はアレンを助けるつもりでサートゥンにいた訳じゃない。他の仕事で来たついでに指輪の事を色々調べていたら、指輪の主が捕まったという噂を聞いてな。

真偽を確かめなくとも、あの程度の城だったら攻略は容易だし正体がバレる事も無い。実際に指輪はあった訳だから突入して正解だった訳だ」

「・・・・・・最初は指輪だけ回収するつもりだった・・・・・・しかしテセウスは・・・・・・捕まった奴も助けようと言って聞かなかった・・・・・・・・・」

「え?」

「俺達の目的は指輪だけだった。正直な所、指輪さえ手に入ればそれで良かった。仮に指輪の持ち主・・・アレンを助けようとして、作戦に失敗したり、素性がバレては元も子もない。

それでもテセウスは『絶対に持ち主を助ける、助けないなら俺は行かない。もしくは俺だけで助けに行く』と言い出した」

「そうなんだ・・・・・・」

「結局俺達が折れて、作戦を変えて突入した。

・・・・・・あいつは口は悪いし頭も悪いし、態度もでかいし素直じゃないし、とにかく頑固な奴だが本当は良い奴なんだよ。

分からなくはないだろう?」

う、うん・・・・・・なんとなくわかるけど。

でもやっぱり、第一印象ってのはなかなか強烈で・・・

「とにかく、今話したのがアレンを助けた理由と、俺達が指輪を欲する理由。

そして、ここからが重要なんだが・・・・・・」

ルドルフさんの声がより一層シリアスになる。

僕も思わず身体を緊張させて、次の言葉を待つ。

「ここには破軍の他に貪狼の指輪があるが、残りの指輪・・・・・・禄存はともかく、巨門、文曲、武曲、廉貞の4つの指輪の回収がかなり面倒でな・・・・・・」

「どういう事?」

「まず禄存。禄存の指輪は大国のアビスが持っている」

「アビス・・・」

強大な軍事力を持つ独裁国家だと聞いた事がある。

今も着々と勢力を伸ばしているとか。

「次に巨門。巨門の指輪は龍神族の王がそれぞれ持っている」

「龍神族・・・・・・聞いた事ない種族だ」

「・・・・・・海の中で暮らす種族・・・・・・主に龍人が多く住むというが・・・・・・我々は水中に留まる術を持っていない・・・・・・」

なるほど、海の中へ行く手段が無いから難しいって事か。

「そしてそれ以外の3つの指輪は、この世界には無い」

「・・・・・・文曲は天界に・・・・・・武曲と廉貞は魔界にある・・・・・・」

天界と魔界・・・・・・

大昔、天界と魔界は1つの大きな国だった。

しかしその国では、権力を巡って2つの勢力が激しく対立を起こしていた。

その対立はいつしか武力を伴うものへと変わり、他の国をも巻き込む大規模な戦争へと変わっていった。

非常に長期に渡る戦争だったが、10年経っても20年経っても戦争は終わらなかった。

戦争により多くの命が犠牲になり、動植物や大地にも大きな被害を与えた。

それでも戦争は終わらなかった。

その理由として最も大きいのは、当時魔法を使った兵器の研究が進んでいたためである。

魔法兵器を実戦投入する絶好の機会だったからだ。

いつしか権力争いは、どちらの方がより強力な兵器を生み出せるかという争いに変わり、新しい兵器が作られるたびに戦場へ投入されていった。

獣神はこの状況を見てひどく嘆き、地上からこの国を大陸ごと異空間へと切り離し、さらに2つの世界に引き裂いた。

それが現在の天界と魔界となった。

そして天界と魔界は、現在もこの世界とは異なる空間で存在している・・・という、言ってみれば伝説みたいな話。

「天界と魔界はこの世界の隣に今も存在している。これは確かな情報だ。

問題はどうやって異空間を移動するか、という事だ」

その自信は一体どこから来るんだろうという疑問は百歩譲って置いておこう。

まぁ確かに空間を操るなんて魔法は、今のところ発見されていないし・・・

そんな能力を持つ人がいるなんて事も聞いたこと無いね。

唯一あるとすれば、さっき使ったテレポーターくらいしか思いつかないけど、あれは機械だし・・・

そもそもどういう原理で動いているかも分からないまま、皆使っているしなぁ・・・

発見されたテレポーターは全部フル稼働してるから、解析に回せる台数が足りない。

もし壊れたら不便だ。

だから誰も分解したり調べようとはしない。

それが当たり前のようになってしまった。

「当面は巨門の指輪を手に入れる為に行動していく。他のメンバーには明日にでも伝える事にしよう。

もちろん、アレンにも手伝ってもらうぞ」

「・・・・・・・・・は? ちょ、ちょっと勝手に決めないでよ。手伝うなんて言ってないし。僕の都合は無視なの?」

「・・・一応聞いておこうか」

「僕、子供の頃の記憶が無いんだ。気付いたら孤児院で毎日を過ごしていて・・・」

「自分が何者なのかを疑問に持ち、旅に出たという事だな」

「そうそう・・・・・・って、おいっ!!」

「では、いまこの時間よりアレンをギルドの正規メンバーの一員とする、以上。

詳しい話は明日の朝にしよう。オリフィス、後は頼んだ」

「無視かよ! 待てえええ!」

「・・・・・・・・・」

本当に完全無視したまま、ルドルフさんはどこかへ行ってしまった。

勝手にギルドに加入させられてしまったけど、どうしよう・・・

オリフィスティアさんも、ルドルフさんの後を頼むって言葉に頷いちゃってるし。

「・・・・・・お前は・・・カナントの店を破壊した・・・・・・その費用は全部俺達が持つ・・・・・・ありがたく思え・・・・・・」

た、確かに店を壊したのは僕だし、慰謝料払えって言われてもそんなお金を持っていないのは事実だよ。

だからってハンターでもない僕をギルドに強制加入っていうのは・・・ちょっと強引じゃない?

せめて僕の意見とかを聞いてくれても良かったんじゃないの?

「・・・・・・拒否権は無い・・・」

「あ・・・そうですか・・・・・・」