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第一話 出会い


 雨が、降っていた。

 神様からのお恵みだとか、天使のおしっこだとか、そんな生易しいものではない。対象の体力を徐々に奪っていく、悪魔の毒。そう表現するのが正しいだろう。
 そんな雨の中をふらつきながら歩く、一匹の仔犬。彼女はそこにいた。
(……おなか……すいた……)
 最後に食事をしたのはいつだったか、記憶もあいまいだ。
 視界の端に、人間が捨てたと思われるゴミ袋の塊が映る。もしかしたら、中に食べ物があるかもしれない。彼女は、その一つをくわえて引きずり出し、中身を物色しようとした。
 突如、地面に大きな振動が伝わる。彼女は虚ろな目を、その震源方向に向ける。巨大な物体が咆哮を上げ、猛スピードでこちらに近づいてくる。
(何だろう……アレ……)
 見たことはあるが思い出せない。気が付いた時には、それは目前まで迫っていた。彼女は一歩も動かなかった。
「――!」
 今度は人間の叫び声が聞こえた。危ない? どういう意味だろう。ふいに体が軽くなり、宙に浮いた。尻尾の先をかすめていく巨大な物体。人間に持ち上げられたのだと気付くのに、ある程度の時間を要した。
「大丈夫か! けがは!」
 この人間は何を言っているのだろう。先ほど物色しようと引きずり出した袋に目をやると、巨大な物体に押しつぶされ、中身が散乱していた。急に彼女は、頭を殴られたかのような衝撃を覚え、現状を理解した。そうだ、もしあのまま動かなかったら、私があの状態に……! 体中が恐怖心で満たされ、大きく震え上がる。雨にぬれて冷え切った体の、後足の間だけ、温かくなっていく。
「もう大丈夫だよ。これからはずっと一緒だ!」
 彼女はそんな人間の心に、表面だけじゃない温かさを感じていた。

 雨が、降っていた。


(2009/11/27 23:20)
 

 
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