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第二話 出発(前編)


(御主人様、早く帰ってこないかなー)
 彼女は家の前で、主人の帰りをソワソワワクワク待っていた。じっとしていられず、犬小屋の前を行ったりきたり。
(一緒に散歩してー、ボールで遊んでー、それからそれから)
 これからのことを考えると心が躍る。でもまぁその前に。
(おしっこ……かな)
 横を向いて、わずかに頬を染める。トイレへは、主人が昼休みの時に連れて行ってもらった。今は太陽が沈みかける夕方。いつもならもう帰ってきてもいい時間だ。
 大丈夫かなー、と彼女は心配していた。もちろん主人のことが大半を占めるが、自身のことも気になっていた。このままだと……。
(いや、もう仔供じゃないんだから、大丈夫だよ)
 頭を振って、嫌な思いを打ち消す。しかし、尿意は消えることなく、徐々に耐え難いものへと変わっていく。いつもならもっと余裕があるのにどうして今日は、と疑問に思う。犬の中では博識の部類に入る彼女も、外気温が体に与える影響まではわからなかったようだ。そう、季節は冬へと変わっていた。
 ふいに、耳の中へ聞き慣れた足音が飛び込んだ。彼女の大好きな音の一つ。
(御主人様だ!)


(2009/11/30 23:50)
 

 
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