ビズラでの受難(2)このままでは埒(らち)が明かない。 「もう。いい加減にしなさい!」 エルは素早く振り返って、片手で使える攻撃用ノノを発動しようとした。それを見てキノコノミは慌てて逃げ出した。 (まったくもう……) エルは大きく息を吐いた。しかし、気を抜いてもいられない。何度かの尿意の波が込み上げてくる。改めて両手でしっかりと押さえ直す。もう限界だ。キョロキョロと辺りを見回す。周りにヒトや虫の気配はなく、しんと静まり返っている。 (非常事態だし、仕方ないよね……) エルは股間からゆっくりと手を離し、ズボンに手をかけた。 (ん?) なにやら音が近づいてくる。それは徐々に大きくなって、飛行船ごとくの爆音に変わった。 (まさかこんな洞窟のなかで……うっ!) エルは思わず顔をしかめる。音と共に、すさまじい臭いも近づいてきていた。手が空いていれば鼻を押さえるところだ。 そいつの正体はすぐに判明した。甲虫だ。しかも特大の。ヤツは興奮状態にあり、そこらかまわず悪臭を振りまいているようだった。 エルは慌てて岩陰に入って、身を屈めた。 (あんなに大きな虫がいるなんて……聞いてないよぅ!) これまで感じたことが無いほどの恐怖を覚え、仔猫のように体を震わせた。 パンツの中が少しずつ温かくなっていき、それはズボンに溢れ出し、地面に水たまりを作っていった。 気付いた時には、甲虫はいなくなっていて、辺りにはマタタンプの匂いが漂っていた。 「エル。どうした、トイレか?」 「え?」 悪夢のような記憶の中にいたエルは、レッドの声で我に帰った。気がつくと、両手で股間を強く押さえている自分がいた。 「ち、違います!」 エルは赤面し、慌てて両手を移動させた。どうやら無意識のうちにやっていたらしい。心を落ち着かせるため、冷めたお茶を一気に飲み干した。 その時、ブリッジから通信音が聞こえた。 「おっ、ダムドのおっちゃんからかな。エル、悪いけど少し待っててくれ」 レッドはそう言うと、ショコラと共にブリッジへ向かった。 ひとり居住区に残ったエルは、タイミングの良い通信に感謝しつつ、先ほどの発言を少し後悔していた。 (そういえば……トイレ行きたいな) |