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ターくんの特別な日


(な、なんで? さっき、全部出ちゃったのに……)

 先ほどのおもらしが夢ではないことは、ターくんが一番良く知っています。おしっこを少しだけ出すのに失敗して、ほとんど全部出てしまいました。なのに、わずか30分で再びおしっこがやってきたのです。
 ターくんのやわらかくてふわふわしていた体毛は、全体的に湿り気を帯びて縮んでいます。特にお腹の毛は、半乾きになって肌に張り付いています。

(うぅ……気持ち悪いよぉ……)

 ターくんは濡れた体毛に不快感を覚えました。

(ご主人、まだ帰ってこないの?)

 ターくんはゆっくり立ち上がると、小屋から出ました。部屋のドアを見つめますが、主人が帰ってくる気配はありません。
 おしっこのにおいがしたので振り返ると、ケージの隅にぐっしょりと濡れたクッションがありました。ターくんは、しばらくそれを眺めていましたが、やがて顔を背け、激しく首を振りました。

(ご主人、早く、早くぅ……)

ターくんはケージの出入り口付近を、せわしなく歩き続けます。

(おしっこ、おしっこ……)

 歩くたびに、前後の足の爪が床に当たり、チッチッチッという音が部屋の中に響きます。

「んっ……」

 ターくんはふいに立ち止まると、後ろ足の間に力を込めました。

(おしっこ、出ちゃう……)

 ターくんは後ろ足を擦り合わせながら、その場で足踏みをしました。

(はぁはぁ……)

 おしっこのしたい感じが少しだけ遠のくと、再びケージの中を歩き始めました。

(ご主人……まだなのぉ?)

 ターくんは何度もその行動を繰り返します。

(このままじゃ僕……また、おもらししちゃうよぉ……)

 そう思った時です。

『ちょろ……』

 ケージの床に水の滴る音が聞こえました。

(……! やだやだやだー!)

 ターくんは後ろ足のつま先を立てて、激しく足踏みをしました。爪が床に当たって大きな音が鳴りました。水の音は消えましたが、おしっこが出ている感じは消えません。

「うわぁぁぁん!」

ターくんは、とうとう泣き出してしまいました。

(もういいよ! 僕もうしらない!)

 ターくんはケージの隅にある濡れたクッションに飛びつくと、全身に込めた力を抜きました。


 その瞬間、部屋のドアが開いたのです。


 

 
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