災い転じて 第四話「どうしておトイレまで行ったのに、ここに戻ってきちゃうのぉ……」 ふいに、おしっこの出るホースの先が重くなった。 「あっ、まって。まってよ」 ぎゅーっと前足でその部分を押さえ、じたばたと足踏みをする。こぼれ出た涙とおしっこが、お気に入りにクッションに、小さな水玉模様を作る。 「もう、おしっこ、我慢、できないよぉ」 おもらし。その四文字が頭の中でリフレインする。 泣きながらトイレに向かうが、もう押さえていてもおしっこはとまらない。ぽたぽたと滴り落ちるおしっこが、廊下に点々と続いていく。 なんとかトイレまでたどり着いた。 ご主人さまがこちらを見ている。 「あの、ご主人さま。ここは、トイレ、ですよね」 必死にお股を押さえながら、ご主人さまに確認をとる。 もう、まともにしゃべることも出来ない。 「おしっこ、しても、いい、ですよね」 「ごしゅじん、さま、おしっこ、でちゃう」 しかし、ご主人さまは何も答えてくれない。 まるで汚いものを見るような目で、ぼくを見下ろす。 「あ、あ……もう、だめぇ……」 押さえてる手を離す。 そこは。 「ふ、ふわああああん!」 クッションの上だった。 おしっこの袋にたまった水が、ホースから勢い良く流れていく。クッションが濡れていき、吸い込まれなくなったおしっこが床に広がっていく。 もう押さえる事もできず、ただおしっこが出終わるのを待つしかなかった。 「ふわあああああん!」 足元のクッションは、おしっこと涙でグショグショ。 ぼくは悲しくて、悲しくて、大声で泣き続けた。 たくさんおしっこが出たけど、ちっともすっきりしない。 涙でにじんだ視界の中、ご主人さまが、ずかずかとぼくに近づいてきて、大きく手を振りかぶるのが見えた。 (! ぶたれるっ) ぼくは、ぎゅっと目をつぶった。 (2009/11/15 15:45)
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