第四話 散策街の中を、一人と一匹が早足で歩く。普段は主人の横に並んで行儀よくする彼女も、今はそんな余裕はなかった。主人の前に出て、素早くトイレポイントに向かう。 (……ダメ、……ここもダメ) しかし、周りのポイントにはすでに力強い雄のマーキングがあった。 (なんで、今日に限って……) その付近で排泄することは、宣戦布告と同意義である。それはできるかぎり避けたい。しかし、限界はもうそこまできていた。 「やあ、こんにちは」 ふいに声がしたので彼女が見上げると、別の一人と一匹がこちらに近づいてきた。主人と彼女の散歩仲間で、よく一緒に遊んでいる。 主人たちが話し込んでいる。もう我慢できないのに。 尿意の波が襲ってくる。 (……少しちびっちゃった) 尻尾を後ろ足の間に巻き込んで、ぴったりと足を閉じる。 (どうしよう。このままじゃ、おもらししちゃうよぉ) 涙目になる彼女。 『大丈夫?』 彼が心配そうに彼女を見つめている。 『今日はなんだか、強い人のマーキングが多くて……』 彼女が辛そうに話す。 『あそこのポイントなら開いてたよ』 彼がその場所を教えてくれた。でも主人たちの話は終わりそうにない。 『リードを強く引いて催促してみたら?』 『ダメ、そんなことしたら出ちゃう……』 『よし、僕に任せて』 彼がリードを強く引いたため、そこで会話はお開きとなった。 (早くそのポイントに行かないと) 彼女はおしっこで一杯になった袋をかばいながら、ゆっくりと歩き出した。 (2010/04/27 23:30)
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