banner


トップ / ご案内 / 更新履歴 / 小説目次 / 掲示板 / リンク集

前のページ      目次に戻る      次のページ
 

ターくんの特別な日


(遊んでくれないご主人が悪いんだ。僕は悪くないんだ……)

 ターくんは、目を閉じて言い訳を続けています。そうすることで、少しでもおしっこのしたい感じをごまかそうとしていました。
 しかし、あまり効果はありませんでした。おしっこのしたい感じは強くなる一方です。
 クッションの上で横になっているターくんは、後ろ足をもじもじと擦り合わせたり、ぴったり閉じたりして、溢れ出そうになるおしっこを我慢します。

(んっ……)

 ターくんの足の間は、熱を帯びてしっとりと湿っています。それは汗によるものだと、自分に言い聞かせました。

 ふいにターくんは立ち上がりました。もうこの体勢で我慢を続けるのは、無理だと思ったのです。
 後ろ足を開いて腰を落とし、おしっこの出る所をクッションに当てました。そして、上からぎゅうっと体重をかけて、そこを圧迫しました。こうしておけば、おしっこは出てこないはずです。

(はぁ……はぁ……)

 少しだけおしっこのしたい感じが遠くなりました。これなら主人が帰ってくるまで我慢できるかもしれません。

(ご主人。早く……早くぅ……)

 ターくんは荒い息を吐きながら、主人の帰りを待ちました。

 しかし、それも長くは続きませんでした。おしっこのしたい感じは、さらに強くなって戻ってきたのです。ターくんはさらに体重を掛け、圧迫を強くしようとしますが、足が震えてうまく力が入りません。
 ターくんの体は、長い間おしっこを我慢していて、クタクタです。このままでは、小屋の中で『おもらし』をしてしまいます。トイレじゃない所で、おしっこやうんちをすることを『おもらし』と言って、イケナイことだと主人から教わりました。

(でも……今日から僕は、悪い仔に……)

 そう思った時でした。

『じゅうぅぅぅ……』

 クッションの中から、小さな水の音が聞こえてきたのです。

(……! や、やだぁ!)

 ターくんは体をビクンと震わせ、後ろ足の間をクッションにグリグリと擦りつけました。

『じゅじゅ……じゅ……』

 水音は断続的なものに変わり、やがて止まりました。

 ターくんは体をクッションに密着させたまま、短い呼吸を繰り返しています。まるで心臓が耳元にあるかのように、自分の鼓動が聴こえます。自慢のふわふわとした体毛は、汗で湿って肌に張り付いています。特に、後ろ足の間は、ぐっしょりと濡れた感じがします。

 ターくんは呼吸が落ち着くのを待って、ゆっくりと立ち上がりました。そして体を反転させてクッションを見ました。
 クッションの一部――おしっこが出る所を当てていた部分が変色していて、その周辺にいくつか水玉模様ができていました。
 ターくんはその部分に、おそるおそる鼻を近づけました。
 やっぱり、間違いありません。


(おしっこ……ちびっちゃった……)


 

 
前のページ      目次に戻る      次のページ

トップに戻る